今回は、志望理由書の作成指導の経験から大事だと思うことを述べたいと思う。これは文系・理系問わず大学院入試向けに書きたい。
志望理由書を書く上でまず確認しておくことは、同時に提出する書類がある場合である。特に、研究計画書を同時に提出する場合は、注意が必要である。両方とも、大学院に入学して何をするかを書くという意味で共通する部分があるが、全く同じ内容であれば、二つ提出する理由はない。両方で書く内容に違いがあるとすれば、志望理由書が本人の経験を重視した主観性が認められるのに対して、研究計画書の方はその人の主観性が認められないという点である。研究計画書では、自分の言いたいことを第三者の、できれば研究者の文章を引用・参照して、客観的に自分のしたいことを裏付けることが大事なのに対して、志望理由書はあくまでも、本人がどういう経験を積んで、志望するに至ったのかを説明した方が、説得力が高まる。もちろん、志望理由書であっても、主観的に思うまま書くだけではダメで、きちんと読み手を意識した形で、書く必要はあるが、研究計画書ほど、書く内容に神経質になることはない。
そこで、研究計画書と志望理由書の両方を提出する場合には、できるかぎり両者の違いを意識して、読み手により説得力を与えられるように工夫することができると考えられる。志望理由書だけを提出するように要求される場合は、自分の経験とやりたいことに関する現実の事実との関連であったり、整合性を書くように心がけると良い。字数制限があって書き切れないときは、面接があればそこで書けなかったことを口頭で説明すればいい。(面接もなければ、志望動機が正確に伝わる工夫だけを考えるのが良いだろう。)
次に、志望理由書で書く内容についてであるが、可能な限り、ストーリー作りを意識すべきである。ここでの意味は、一文一文の関係性や整合性が読み手に自然と認識してもらえる工夫のことである。自分が経験した過程に沿って、ただ単に書けばいいというわけではない。文脈がきちんと伝わるような一連の流れを重視することが大事である。特に、自分がやっていきたいことがどういうきっかけで、自分の中で生まれたのかというところを重点的に書くべきである。それは自分では当たり前に思っていることであろうが、読み手は全く知らないので、丁寧に説明しないといけない。どこまで説明するかについては、はっきりとした基準がないので、自分以外の人に見てもらうのが手っ取り早く成果が得られるであろう。できれば、志望する分野に精通している人(分野の知識だけでなく、その分野の学者がどういう反応を示すかが予想できるとなお良い)にチェックしてもらうことをお勧めする。なぜなら、ある分野の人から見て、十分に説明された内容であっても、他の分野の人からみれば、異なる印象をもたれる可能性があるからである。
志望理由書は自分がどういう人物なのかを大学院に説明する絶好の機会なので、最大限活かしてほしいと思っている。
荒木先生