最近受けたある神経生化学の講義の中で、面白い実験の例がありました。
まずマウスケージの中のある場所に餌を隠し、餌を探し出すまでの時間を測定します。これを何度か繰り返すと、マウスが餌の場所を記憶して短時間で餌を探せるようになります。ところが一日経って次の日も同じ実験を行うと、餌の場所を忘れてしまって、また長時間かけて餌を探すことが知られています。
一日経つと失われてしまう、このタイプの記憶は「短期記憶」として知られています。これに対し、数日経っても残っている記憶を長期記憶と呼びます。さて、短期記憶を長期記憶に変えるにはどうすればいいでしょうか?
面白いことに、一日目の実験の後でマウスをいろんな遊び道具の入った新しいケージに移し、しばらく遊ばせてやると、次の日にも記憶が残っており、短時間で餌を探し出すことができます。この実験から推論できる事は、真新しいものを見ることや普段と違う行動をとることが神経細胞内でタンパク質合成を誘発し、短期的なシナプス増強を長期化させるということです。
受験勉強中のみなさん。
せっかく一日かけて覚えたことを、何日か経つとすっかり忘れてしまうという経験はないでしょうか?この現象は神経科学的には短期記憶が長期記憶に変わるまえに失われていると考えることができます。「人はマウスとは違う」と思われるかもしれませんが、神経細胞の生理学レベルで比較すると両者は非常によく似ています。
短期記憶を長期記憶に変えるコツは人それぞれでしょうが、さまざまな研究結果から、
・新しいことを勉強するとき、普段と違う場所で勉強してみる
・勉強した後に体を動かしてみる
・寝る前にその日勉強したことを簡単に復習してみる(睡眠中に神経細胞のタンパク質合成が活発化するという報告があります)
といった方法が考えられます。試してみるのもいいかもしれません。
田中智先生
