日本経済の90年代の初期のバブル崩壊以降から今日までの低迷状態を「失われた10年」とか「失われた20年」と言われます。一方で、経済ニュースや選挙の話題になるとほぼいつでも「景気が悪い」、「不況」といった言葉がでてきます。では、この『長期低迷』と『不況』とはどのような関係なのでしょう?長い不況のことを長期低迷と言い換えているだけなのでしょうか?これに対する、マクロ経済学の理論からの回答は「これらは全く別物である」です。
日本経済についての説明の前に、イメ-ジのしやすい具体例で考えてみましょう。今、石川遼君に憧れてゴルフを始めた大学生のA君がいるとしましょう。
①4ヶ月後 A君は始めのうちはかなり低いスコアしか出せないでしょうが、スウィングの基礎の基礎をなんとか真似できるようにはなりスコアは劇的に上がりました。
②さらに1年半後 そして、ゴルフの基本的なテクニックをある程度身につけたころになるとなかなかの高スコアを出せるようになりました。
③さらに1年半後 努力しても以前よりも遅い速さでしかスコアは上がらなくなりました。
恐らく、①-②-③の「スコアの推移」の根拠は「実力の推移」と考えるのが自然なのではないでしょうか?
一方で、今日と昨日ではほぼ実力に変化はないでしょう。しかし、スコアに大きな変動があることはよくあるものです。この変動は、「調子の変動」と考えるのが自然ではないでしょう。つまり、実力以上のスコア=「調子がいい」、実力以下のスコア=「調子が悪い」ということです。こうして見ると、「調子」という概念は「実力」が前提として決まっていることを想定しているものだということが分かります。
経済の例でも全く同じように考えられます。以下のように対応が付きます。
スコア=GDPの実績、実力=潜在的GDP(自然産出量)、調子の変動=景気変動(=GDPの実績と潜在的GDPの乖離)、実力の成長=経済成長(=潜在的GDPの成長)
こうして、見ると今の日本経済の説明としては実力が低迷しているという立場の長期停滞と診断するのが適切なのではないでしょうか? なぜなら、スコアが20年間も継続して低い状態を「調子が悪い」と判断するのは不自然だからです。20年間、成績が低迷していたゴルファーが「本当はもっと実力があるのだけど調子がなかなかでなくて成績が低迷している」と言ったら、皆さんは信用するでしょうか?恐らく、「本当は実力自体が無くて、これまでのスコアは実力通りなのでは?」と思うでしょう。
マクロ経済学では初めに、景気変動をIS-LM分析で扱い、次に実力水準(自然産出量)をAD-AS分析で扱い、最後に実力の成長(経済成長)を経済成長論(ソローモデル)で扱います。
このように時間スケールを段々と大きくしていくなかで、分析のフレームワークも変えていくのがマクロ経済学の大きな特徴です。
新宅先生
