私の専門分野は外国語教育です。よく他分野の方からは「何を研究するところなの?」と聞かれますが、その研究分野は多岐にわたっています。一つの分類法として、研究を内容学(何を教えたらいいのか)と方法学(どのように教えたらいいのか)に分けることがあります。前者は、外国語教育の目的論に始まり、学習文法(教育文法)の開発や語彙の選定、教材開発などを含み、後者は読み・書き・聞く・話すという4技能や語彙・文法に関する最適な教授方法を探る研究などを含んでいます。もちろんこれ以外にも、授業研究・教室研究のように、内容学と方法学の両者を組み合わせた研究もあります。今日はその中でも、授業における「発問(注1)」に関する研究の一例を紹介したいと思います。
例えば、よく知られた実践の一つなのですが、中学校2年生に、南アジアのある少女が書いた以下のような文章を提示したとしましょう。あなたが英語教師なら、この文章からどんな発問を考えますか?
Mom and Dad work at a factory from early morning till night. I look after my little brothers and sisters. I don’t attend school. (a girl of 8, South Asia)
どうでしょう。実はこんな短い教材を使っても、熟練した教師はさまざまな発問を考えて、学習者の読解・思考を促すことができます。
例えば、「この文章の“I”とは誰ですか?」のように、「8歳の少女」という一つの答えが明確に定まるような、理解を確認するための発問もあれば、「“I don’t attend school.”というように、この少女が“can’t”ではなく”don’t”を使っているのはなぜですか?(注2)」というように、答えが明確に定まらず、学習者に解釈を求めるタイプの発問も考えられますね。発問研究によれば、一般的に発問は以下の3タイプに分けることができると言われています。
1. literal questions(文字通りの発問)
2. inferential questions(推論をはたらかせる発問)
3. interpretational questions(解釈に関わる発問)
1.と2.は、どちらも最終的に答えは一つに収束しますが、後者は解答にたどり着くまでにひとひねりあり、よく文章を読み返すことで答えられる発問を意味しています。一方、3.は学習者の自由な思考を促す発問を意味します。典型的な英語授業では、多くが1(や2)のタイプの発問を扱うことが多かったのですが、より学習者にテクスト(読解素材)を深く、また自分自身と照らし合わせて読むために、内容理解を行う際には、これら3つの発問をバランスよく含めたほうがよいといわれています。
このように、実はある英語授業一つをとっても、これまでの長期にわたる研究成果や科学的な理論、教師・研究者たちの様々な思いに裏打ちされて初めて授業が成立するのだいうことが、少しでもお分かりいただけたでしょうか?今回はやや実践的な研究をほんの一例のみ紹介しましたが、まだまだ面白い研究が数多くあります。このような研究がしてみたい方、ぜひ私たちと一緒に外国語教育の未来を考えてみませんか?
(注1)
質問:自分がわからないことを尋ねること。
発問:自分にとってわかっていることを(理解の確認、思考を促すなど、何らかの目的をもって)尋ねること。
(注2)
解答例としては、少女が学校に「行けない」のではなく「行かない」、つまり自分の意思・選択で学校へ行かずに兄弟姉妹の世話をするのだという彼女自身の思いが言語に表れているから。などが考えられる。
加藤先生
