言語学って何?

投稿者: | 2012 年 5 月 19 日

 今回は、私の専門である言語学について少し書いてみようと思います。……とはいっても、ひとことに「言語学」といったところで、その対象や方法論はあまりにも広大で多様です。むしろ、これこそが言語学という学問体系の特徴であるといっても過言ではないかもしれません。もし「言語学ってなに?」と聞かれたら、わたしなら、「ことばに関係するあらゆる現象を、科学的に記述し分析すること」と答えることになるでしょう。
 では、ここでいう「言語学」の対象には、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、そのなかからいくつかを挙げて、みなさんにご紹介したいと思います。
 まず、ことばを分析するためには、個々の言語を、体系として正確に理解し記録することが必要です。これを記述言語学といいます。日本語や英語などは、話者が多いため「大言語」とよばれていますが、このような言語は、6000にものぼるといわれる世界の言語のうちのごく一部にすぎません。残りの多くの言語は話者が少なく、なかには「絶滅」の危機にひんしている言語もあります。
言語についての記述をもとにして、ヒトの言語能力をモデル化する、つまり、人間には言語を使うためのどんな能力があるのかを明らかにするのが、理論言語学です。理論言語学には、音韻論(言語で使われる音のパターンの研究)・統語論(単語のような小さな単位を組みあわせて句や文などの大きな単位を作るときの規則性の研究)・意味論(言語の意味についての研究)・語用論(言語が実際に使われるときの人間の思考や推論の研究)などの下位分野があります。歴史比較言語学という分野では、いわば「親戚」関係にある言語どうしを比較したり、ある言語の体系のなかでの昔の「名残り」を探したりして、言語が歴史的にどのような変化をたどってきたかを調べます。たとえば、地理の授業で「インド・ヨーロッパ語族」という用語を聞いたことがある人もいると思いますが、こういった概念は、歴史比較言語学の生みだしたものです。
 さて、今回は、言語学の下位領域のうち、記述言語学、理論言語学、歴史比較言語学についてごくごく簡単な紹介を読んでいただきました。これらのほかにも、言語学には、対照言語学(ある言語と別の言語を比べてその特徴を論じる)・社会言語学(言語と社会の関係を探る)・応用言語学(外国語教育を言語学的に研究する)・心理言語学(言語を使うときの脳の様子を神経科学的に調べる)・言語習得研究(赤ちゃんはどのようにしてことばを話せるようになるのか?)といった、数多くの分野があります。
 「言語」という現象はあまりにも身近で、それが科学の対象になると言われると少しびっくりしてしまうかもしれません。しかし、それゆえに、言語という現象はあらゆる現象と関連させてとらえることができ、「言語学」という分野の中でもこれほどたくさんの領域が発展しているのです。

堀口先生