私の所属している研究室は、さまざまな難病患者から細胞を頂き、iPS細胞を樹立、解析を行うことで病態や新規治療法の開発を目的としています。 iPS細胞と聞くと、さまざまな可能性を秘めており、文字通り『万能な細胞』であるかのように受け止められがちですが、その実際を知っている人はどれだけ いるのでしょうか。
現在の私の生活を簡単に紹介すると、朝は早くから研究室に行き、夜は毎日2-3時頃まで研究室にいます。iPS細胞は 非常に弱い細胞なので、一日でも相手をしないとすぐに死滅します。なので、旅行はもちろん、帰省すらままなりません。たまの飲み会後も、終了後に帰るのは 家ではなく、研究室です。もちろん私の生活が標準ではないでしょうが、出家するぐらいの覚悟がないならば、この業界に手を出すことはやめるべきです。
また、世間が思っている以上にiPS細胞は万能ではありません。問題だらけです。詳しくは書きませんが、現在iPS細胞から作れる機能的な細胞は、おおよ そ神経か網膜ぐらいではないでしょうか。赤血球をiPS細胞から作製し、輸血に使おうものなら、およそ何十万、何百万円という医療費がかかるのではないで しょうか。しかも、それでいて機能は不十分です。
では、なぜお前はそんなnegativeな細胞の研究をしているんだ。と聞かれそうです が、答えはまさにタイトル通りです。我々研究者は、常に社会全体への、患者への利益還元を念頭に置かなければなりません。そのために使えるものは全て使 い、あらゆる可能性を試す必要があります。目的の達成のために、時には自らの信念や仮説を捨てて取り組む必要があります。つまり、一刻も早く成果を患者へ 届けるには、なりふり構っている場合ではないのです。
入試もまさにそうではないでしょうか。生徒にはいつも、受かることが目的なのだから、自分のやり方や考えを捨てる時も必要だ、と言ってます。本当にやりたいことがあるならば、『人事を尽くして天命を待つ』。これに限るのではないのでしょうか。
前川先生