今回は古代ヨーロッパの地図について書いてみたいと思います。歴史は時間を縦糸、空間を横糸に織り成される織物によくたとえられるように、歴史を学ぶ者にとって地理は重要な要素の一つです。しかし、過去の人々が現代と同じ地理観念を持っていたとは限らないため、とくに古い時代について学ぶ場合には当時の人々の地理観念がどのようなものであったのか注意する必要があります。
ウィーンの国立図書館にポイティンガー図と呼ばれる地図が保管されています。これはかつてコンラッド・ポイティンガーという人物が所有していたことから、彼の名前が付けられたもので、4世紀から5世紀頃に書かれた地図を13世紀頃に書き写したものといわれています。このポイティンガー図の元になった地図は、残念ながら現在失われてしまっていますが、その地図は、ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの治世下で、将軍アグリッパによって行われた紀元前1世紀の測量調査に基づいていると考えられており、ローマ時代の地図がどのようなものだったのかを知る貴重な資料となっています。このポイティンガー図は、地中海からインドまでの地域の地図ですが、縦約34センチに対して、横約6.8メートルと極端に横長の形をしています。これは実際の移動の際に役立つよう、地形を忠実に表すよりも、各都市間の距離を正確に記そうとしたためで、実用性を重んじたローマ人の性格が表れているといえるかもしれません。
疋田先生