参考書に載っていない知識

投稿者: | 2015 年 8 月 29 日

秋の入試期間が迫ってきました。夏休み期間というあり、夏期講習も受け持ち私も7月、8月と大忙しでした。心理学担当として京都大学教育学部の編入、大学院は帝塚山大学と関西大学の臨床心理の専門職大学院などの過去問演習を行いました。この中で関西大学大学院は心理検査や心理療法のかなり細かい知識が問われる点で難解であるといえます。一方、京都大学や帝塚山大学では細かい知識はあまり問われませんが、それとは異なる難しさがあります。

京都大学の問題に見られる一つのパターンは、心をはじめとして言語、身体、認知、感情、イメージなど漠然とした言葉を与えて、それらの関係を心理学的に述べさせる類の問題です。唯一絶対の模範解答はなく、多様な発想による答案が考えられます。問題を解くときには心理学的な知識を学習することが求められることはもちろんですが、それだけでは対応できません。抽象的なキーワードから関連する心理学の概念や研究を思い浮かべることができてはじめて答案が書けます。私が担当した方には引き出しにたとえて「知識を引き出しに入れることはもちろん重要だけど、問題を解くときには抽象的なキーワードから適切な引き出しを見つけて開けられるかどうかも必要だ」と伝えました。いくら知識を持っていても、抽象的なキーワードからその知識が思い浮かばなければ意味がないのです。その能力は一種のコツであり、問題演習を通して身につくものです。教える側の立場から見ても、概念や知識とは違って簡単に伝授できるものではありません。

帝塚山大学大学院は臨床心理学の根本的なところが問われます。例えば、ロジャーズの純粋性・自己一致がカウンセリングで重要な理由を述べさせる問題です。純粋性・自己一致はロジャーズの三条件の一つで臨床心理学の基本的な知識ですが、それがなぜ必要なのか、どういう意味でカウンセリングに役に立つのかについて答えられる人はそれほど多くないと思います。臨床心理学の参考書でもなかなか触れられていません。このような問題に対応するためには、基礎知識を網羅的に解説してある本とは異なる種類の本を読むといいでしょう。私が参考にするのは非専門家も読者層に想定されている「カウンセリングの話」「カウンセリングとは何か」です(ともに朝日選書)。概念を知るという目的には向いていない代わり、その理論的背景や必要性等も含めて、概念がかみ砕いて説明されているため、根本的なところを問われる問題にはこうした本が役に立ちます。

両者に共通するのは単に知識や概念が問われているのではなく、その背景や位置づけまで含めて知る必要があるということです。それらは学習の際になおざりにされがちで、参考書には直接書いていないこともあります。その際、一般向けの本のほうが役に立つ場合もあるので、幅広い学習をするとよいでしょう。

増井先生